
沖縄本島南部、南城市知念(なんじょうしちねん)にある『涯山窯(がいざんがま)』で、今日は世界にたったひとつ、自分だけのオリジナル“やちむん(陶器)”作りに、那覇在住の友人とチャレンジ! 工房は眼下に太平洋を見下ろす小高い丘の上にあり、裏手には、まるで屏風岩のような迫力満点の山肌が眼前に迫ります。

世界遺産の『斎場御嶽(せーふぁうたき)』からもほど近く、工房から歩いて1、2分の場所には、『知念グスク』(城跡)や『知念大川(うっかー)』などの史跡が点在します。せっかくなのでやちむん作り体験の前に、ちょっと散策してみましょう!

知念グスクや、稲作発祥ゆかりの泉・知念大川は、はるか琉球王国時代から、国王自らが参拝する『東御廻り(あがりうまーい)』の聖地として崇められてきた神聖な空間。知念大川から知念グスクへ続く道は、木々の生い茂る緑のトンネルの坂道になっています。

集落からもすぐなのに、まるでやんばる(本島北部)の森の中にでもいるよう。琉球石灰岩の石や岩が織りなす古道を静かに歩くだけでも非日常の趣。無音の山道で突如、ササーッと音がして思わずふりかえってしまいましたが、鳥が飛び立つ葉ずれの音でした。普段は、たくさんの音に囲まれて慣れっこのはずなのに不思議です。

色鮮やかなクロトンに、クワズイモの大きな葉。ホームセンターでしか見かけないような植物たちがそこらかしこに。国内最大級の蝶、オオゴマダラもふわりふわりと飛んでいて、すかさずシャッターチャンスを狙います。それもそのはず、この森には、オオゴマダラの食草のホウライカガミがまだまだたくさん自生しているのです。

大きなガジュマルの巨根。一体、樹齢どのぐらいあるのでしょう?

緑のトンネルの古道を抜けると、見晴らしのよい知念グスクに出ます。本土の築城様式とは異なった石積みのアーチ門が見事です。『なんかこういう石積みの前に立つと、自然だけではない、歴史がその中にある感じすらするね』昔の風情を偲ぶひとときです。

グスク内からは神の島・久高島(くだかじま)を遥拝でき、青い海の大パノラマが望めます。小さな岩影や漁の船影は遠くてなかなか見分けがつきませんね。

さて! わずか20分ほどですが、ちょっとしたショートトリップのような散策から戻ると、いよいよやちむん作り体験のスタートです。ついさっきまで、大海原を前にしていたのに、工房のウッドデッキからは、この岩肌です! でも、実は、この地形も太古のサンゴ礁の海底が隆起してできたものなんですよ。

涯山窯は、玉木弘一(たまき・ひろかず)・浩一郎(こういちろう)さん親子が営む工房です。住宅と工房、そしてギャラリーが一体となり、山の懐に佇んでいます。まずは、お手本の動作を見せてもらいます。

街なかで生活していると土に触れることすら久しぶりの経験。まるで童心にかえって“どぅるむたーん(どろこん遊び)”をする子供のような表情がいいですね。

ゆっくり回転するろくろの気配をうかがいながら、土に片手を添え、もう一方の手で底部から立ち上げていきます。まだまだ腰も引け気味ですが、浩一郎さんが丁寧にサポートしてくれます。

立ち上げてはぐしゃっ、を何度も繰り返しながら、だんだんと形になっていきます。『自分の意識とは関係なしに安定してぐるぐる回り続けるろくろの上で、力みすぎず、緩みすぎず、“ちょうどいい加減”で身体を使うのって、すごくむつかし〜い! 手だけじゃないんだよね、全身のバランスでスパイラルな動きをろくろと生み出している感じ!』なるほど、ヨガをたしなむ彼女らしい言葉です。

『だんだん土が肌にぴたっとくるね。皮膚にぐいっと入ってくる感じするらするよ〜。あらためて土は生きてるんだなぁって思ったよ』。涯山窯では、沖縄の土にこだわった作陶を続けています。もちろん、やちむん体験で使われるのも、地元の土。彼女の手にまとわりつく土を見ていると、まるでクチャ(泥岩)パックのようでもありますね(笑)。

土と奮闘? 彼女いわく“セッションしながら”、たっぷり2時間、やちむん作りを楽しみました。最初は、まるで土に弄ばれているような感じで緊張していましたが、だんだんとリラックスして、完成する頃にはこの表情!「なんだか、普段とは違う体の感覚や動き、いつもは使わない神経も総動員して全力で集中した感じだよ(笑)」。

スープボウルをイメージしたそうですが、作っている間は無我夢中。さて、どんな仕上がりになるでしょうか? この後の作業は工房にバトンタッチ。土をしっかり乾燥させ、釉薬でお化粧をして本焼きをし、約1ヶ月後には、完成した世界にひとつだけの器が届きます。

裏山の湧き水をひいた水道水で、土を落とします。『そういえば、ちっちゃい頃は、水たまりでこんな泥水見かけても“コーヒー牛乳だ〜!”ってキャッキャしてたよね(笑)』。土と戯れている間に、懐かしい記憶も辿ったようです。
さあ、一生懸命集中したあとは、お腹もぺこぺこ。工房の上にあるリビングでは、奥様の秋子さんが生地から手作りしたピザを焼いて待っていてくださいました。

涯山窯は、リビングなど家族の住居スペースとギャラリー部分が、分け隔てなくひとつの家の中に同居する心地いい空間。日常での器づかいや室礼(しつらい)のひとつひとつがさりげなく参考になります。

リビングや工房の前に広がるのは、いつもこの絶景。夕暮れ時には斜光に染まり、雨の日には山水画のような美しさで迎えてくれます。グスクの聖地を散策してパワーチャージしたら、やちむん体験で自分さがしののんびり時間。沖縄の自然に触れたあとは、沖縄の土にこだわる工房で、土と触れ合いながら、忘れかけていた本来の自分に再会する、そんな旅のスタイルもまたいいものですよ。
ギャラリー涯山窯(がいざんがま)
住所:南城市知念字具志堅268-1
TEL:098-948-7644
営業時間:10:00〜18:30
定休日:水曜
『陶芸体験コース』(約2時間)
大人/3,000円 子供(幼稚園生以上)/1,800円
*前日までに、ご予約ください。
*ランチ(1,000円〜)をご希望の方には、自家製ピザ(サラダ・スープ付)やソーメンチャンプルー、ヒラヤーチーなどもご用意可能です。
沖縄CLIPフォトライター 鶴田尚子
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