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後世に伝えたい美しい琉球小物 ~ 掛香「寿ぎの香り」と匂い袋「結」

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ある日、『2017 那覇の物産展 市長賞受賞商品決定!』の記事を新聞で目にしました。概ね3年以内に那覇市内で開発された商品のなかから、優れたものに授与される那覇市長賞の受賞商品が紹介されていました。魅力的な商品・作品のなかでも、私がことに惹きつけられたのは、「寿(ことほ)ぎの香り」と「結(ゆい)」。オリジナル琉球お香を首里織で包み、花結びで美しくまとめ上げた掛香と匂い袋です。ありそうでなかった、みたことのない作品に胸がときめきました。着物とお香が大好きな私にとって、これほど心惹かれたメイド・イン・琉球の小物ははじめてのことでした。


・匂い袋「結(ゆい)」(手前)と「寿(ことほ)ぎの香り」。オリジナル琉球お香を首里織で包み、花結びで美しくまとめています。ともにすべて手作りです。


さっそく、掛香「寿ぎの香り」と匂い袋「結」を制作されたおふたりを訪ねました。首里織の伝統工芸士・吉浜博子さんと、お香のスペシャリストである香司(こうし)の谷口幸子(ゆきこ)さんです。

「寿ぐとは、祝いの言葉を述べて幸運を祈るという意味です。『寿ぎの香り』は新年やお祝いの席に掛香として使っていただきたいですね。匂い袋『結』には結ぶ、共同という意味があります。人と人を結ぶ香りをイメージして、互いに助け合い平和を願う想いをこめてお作りしました。結婚式の引き出物に使っていただいたりしています」と香司・谷口さん。

「『寿ぎの香り』と『結』はまずお香ありきです。この作品は、香司の谷口さんのイメージからうまれました。谷口さんの依頼で、私が織った首里織をお渡しします。なかに入れるお香の調合、縫製、花結びはすべて谷口さんが行います」と、首里織の吉浜さん。


・谷口幸子さん(左)と吉浜博子さん。「寿ぎの香り」と「結」は、香司の谷口さんと首里織の伝統工芸士の吉浜さん、それぞれの専門分野を活かした琉球の伝統を伝える作品です。


「『寿ぎの香り』と『結』に使っている香料のヤマクニブー(山九年母)は、琉球王朝時代の女官たちが箪笥に忍ばせて香りを楽しんでいたと言われています。お香でよく使われる中国原産の零陵香(れいりょうこう)とヤマクニブーは同じサクラソウ科。零陵香の香りと沖縄のヤマクニブーの香りが同じだったのです。ぜひ沖縄のヤマクニブーを使って沖縄の香りを発信したいと思いました」と谷口さん。

その言葉を継いで、「ヤマクニブーはむかし、おばぁが虫除けに使っていました。枝葉をそのまま衣装箪笥に入れていました。だからヤマクニブーは虫除けというイメージが強かったですね。それがお香になるなんて。驚きました」と当初の驚きを吉浜さんは笑顔で語られました。


・乾燥させた沖縄県産ヤマクニブー(山九年母)。和名はモロコシソウ。ヤマクニブーの生産者さんは非常に少ないのが現状です。


「匂い袋の布は西陣織などでつくっていましたが、沖縄の香りを発信するには、布も沖縄ものが理想という想いがありました。友人を介して吉浜さんとご縁をいただき、王朝時代から伝わる首里織を布にすることが可能になりました」と谷口さん。

沖縄のオリジナルお香が入った首里織の匂い袋と掛香、これまでありそうでなかった琉球小物。というのも、沖縄では魔除けとしてのマース袋が定着しているので、小袋にお香を入れるという発想がなかなか思いつかなかったのでしょう。素敵な作品はおふたりの出会いから誕生したのでした。




「首里織」とは、14~15世紀の琉球王国時代から首里に伝わるさまざまな紋織や絣織物を総称する名称です。首里織の種類は、沖縄の織物でもっとも格式の高い首里花倉織、士族以上の着衣とされた首里花織、男物官衣として用いられた首里道屯織(どうとんおり)、首里絣、首里ミンサーなど、多種多彩です。着物好きがこうじてこの道20年以上の吉浜さん、「首里織は技法が多いので勉強は続きます。先輩のあとを追いかけて、走りっぱなしです」と精力的に首里織に取り組んでいらっしゃいます。


・首里織の伝統工芸士・吉浜博子さん。技法の多い首里織を極めるべく日々精進されています。


「首里織は、意匠設計から染色、織りに至るまで、すべての工程をひとりで行います。谷口さんから『白で織ってください』と色を指定されることもあります。意匠設計からすべて私が行いますので、目的に応じて色柄を考えることは大変ですが、どんな柄がいいかな、と考えることも楽しいですね」と吉浜さん。

着物は分業というイメージがありましたが、首里織は分業をせず、全工程をひとりの人が手作業で一貫して生産していることに驚きました。吉浜さんが手掛ける首里織の工程を追いかけるだけでも連載ができそうです。




「寿ぎの香り」と「結」の上品な首里織に華を添えるのが、京都から取り寄せた組紐でつくられる「花結び」です。

「花結びとは、移ろいゆく四季折々の自然の姿を一本の紐で作り上げる優美な伝統結びのことです。花結びの歴史は古く、いにしえの人びとは所有権の表示や目印・合図として花結びを使っていました。結びは邪気を払うとされ寺社仏閣にも奉納されています。また、結びを屋内に掛けると邪気を払い、身につけると幸福を招くと考えられてきました」と谷口さん。


・掛香「寿ぎの香り」の唐蝶結び。胡蝶が羽を広げた形に結び、縁結びの意が込められています。下方は二重叶結び。お守りによく使われるより強い祈願を込めた結びです。


「寿ぎの香り」と「結」には、ともに二重叶(かのう)結びがあしらわれています。表が「口」、裏が「十」となる「叶」の文字をかたどった叶結びを二重にすることで、より強い祈願が込められています。二重叶結びは御守にも用いられる祝いの装飾結びです。さらに「寿ぎの香り」には、唐蝶(からちょう)結びやこま結びなど、縁起のよい結びがいくつかあしらわれています。

「首里織はさまざまな色や柄がありますので、それに合わせてと紐の色や花結びを変えています。首里織と色、結びの組み合わせを考えるのが楽しいですね」とおっしゃる谷口さん。厄除け招福の意味をもつ伝統ある花結び、素敵です。



・首里織の縫製、花結びも担当されている香司の谷口幸子(ゆきこ)さん。「香りは直接、脳の海馬に働きかけるので認知症予防にもなるのですよ」と香りの可能性についても語られました。


「お香の香りは歳月を経て、まろやかに変わっていきます。『寿ぎの香り』と『結』の香りは少し変えていますが、どちらも基本となる香料はヤマクニブー、桂皮、鬱金(うこん)、楠、いずれも沖縄県産です。これら沖縄の香りをベースに、甘く華やかな白檀(びゃくだん)、すべての香りをまとめて良い香りに仕上げてくれる麝香(じゃこう)など、約10種類の原料を足したり引いたりしながら調合しています」と谷口さん。どちらも沖縄のおばぁのおうちのような懐かしい香りや、寺社仏閣を彷彿させる安らぐ香りです。


・沖縄県産の香料をベースに、谷口さんがさまざまな香料を調合してオリジナル琉球お香がうまれます。中央の実は、お香といっしょに「寿ぎの香り」に入っている訶梨勒(かりろく)の実。


「本部(もとぶ)町にはヤマクニブーが、国頭(くにがみ)村には桂皮や楠があります。お香の原料となるものが沖縄にあるのですが、ヤマクニブーなど生産者や担い手が少なくなっています。かつては沖縄の生活に根ざしていたはずのものが失われつつあるのです」。谷口さんは、やんばるにも赴き、香料となる沖縄の自然の恵みや、その魅力を訴えています。作品構想の源は、沖縄の香りを発信するとともに、消えそうな沖縄の伝統や文化をなんとかしたいという谷口さんの強い想いでした。



「首里織から、縫製、お香の調合、花結び、何もかもすべて手作りです。ゆっくりと良いものをつくっていきたいです」と谷口さんと吉浜さん。
お香、首里織、花結び、いずれもそれぞれを語るに1冊の本が書けるほどの文化、伝統、工芸が、見事に融合しました。いにしえの伝統に根ざした琉球小物。まさに、後世に伝えたい作品です。

魔除けの訶梨勒(かりろく)の実も入った掛香「寿ぎの香り」と、気軽に持ち歩きできる匂い袋「結」、高貴な美しさと沖縄の香りを楽しみつつ、幸運も呼び込んでみてはいかがでしょうか。


・『寿ぎの香り』は、縁起がよいとされる蝉に似せた伝統的なたたみ蝉袋に、唐蝶結び、総角結び入り型など縁起の良い花結がふんだんにほどこされています。なかにはお香といっしょに邪気を払うとされる訶梨勒の実が入っています。


『寿ぎの香り』『結』
購入可能場所/沖縄県立博物館・美術館(http://okimu.jp/)、那覇市伝統工芸館(https://kogeikan.jp/
お問合せ/オフィスユキコ nunubu メールアドレス  yukiko.ta.ta@gmail.com  



沖縄CLIPフォトライター 安積美加 

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