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フォトライターズダイアリー 062 小野暁子編

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メルボルンの風を運び、驚きに満ちたひと皿に出あえる店「食堂黒猫」
 
いちにちに余裕があるとき。ちょっと嬉しいことがあったとき。ゆっくり自分と向き合いたいとき。ふっと出かけたくなる場所がある。それは首里の住宅街にある「食堂黒猫」という名の店。

 
メルボルンスタイルを掲げるこの店に、はじめて来たのはいつだったろう。ちょっとわかりにくい場所にあって、迷いながらも、ようやくたどり着いた時には妙に嬉しくて。階段をのぼり、扉を開けた先には、こじんまりとした気持ちのいい空間が広がっていた。
 
一方の窓からは那覇の街並みを見下ろせて、その先には東シナ海。もう一方の窓からは首里城が見える。大きなコーヒーマシンと、緑が見えるキッチン。学校で使われていた懐かしいテーブルとイス。

 
そこにあるものたちが、窓からの光を受けて、どれも心地よさそうな表情をしていた。そのせいか、席に着くと妙に居心地がよくて、この店の空気にすうっと溶け込んでいくようだった。

  
店を切り盛りするのは、メルボルンでいくつものカフェやレストランを渡り歩いたシェフの沙季さんと、メルボルン出身でバリスタ担当のクリスさん夫妻。
 
食事のメニューは5種類ほど。甘いプレート、野菜たっぷりのもの、卵が主役だったり、肉がメインだったり。料理写真のないメニューを眺めながら、想像力をふくらませ、その日の気分に合うものをオーダーする。

 
そうして運ばれてきたひと皿には、毎度驚かされる。たいてい想像を、気持ちよく裏切られるからだ。
 
沙季さんが作るプレートは、まるで洋書から飛び出したかのように美しくて、初めのひと口でおいしさに感激し、食べすすむうちにどんどん笑みがこぼれる。
 
酸っぱいの、甘いの、塩辛いの。味がいろいろ。食感もシャキシャキしていたかと思えば、こりっとしたもの、ふにゃりとやわらかいもの。とにかく口の中がにぎやかで、でもちゃんとハーモニーを奏でていて、食べて楽しいのだ。

 
実はこの驚きに満ちた料理がメルボルンスタイル。ひとつのメニューにバラエティに富んだ食材をふんだんに使い、おいしさを引き出すためには手間を惜しまない。ていねいな下ごしらえにはじまり、ドレッシングもソースも、それぞれの料理で手作りしている。
 
どこかで見聞きしたものではない、ここでしか食べられないオリジナリティあふれるひと皿に、シェフがありったけの力を注ぐ。看板メニューはなくて、味、食感、見た目、器使い、全てにこだわったメニューが、少しずつ入れ替わっていく。
 
だから、訪れるたびに新しい味に出あえたり、驚きがある。そしてぐるり見渡すと、それを楽しみにしているお客さんがとても多いようなのだ。

 
食後には、クリスさんが淹れる渾身の一杯を味わう。豆を選ぶところからはじまり、焙煎、豆挽き、抽出にまでこだわる、メルボルンではサードウェーブとよばれるコーヒーだ。
 
新しい豆がはいったら、いくつものサンプルをとって、納得のいく味を探すという。そして、その日の気温や湿度、気圧をみながら淹れ方を変え、とびっきりの一杯を出してくれる。
 
なにより、コーヒーを淹れるのが楽しいとクリスさんは笑う。その気持ちも一緒にいただいているのだ。

  
この夏のおすすめは、6時間かけて抽出する水出しコーヒー。ロックで飲んでもいいし、氷が溶けたところを味わっても、水で割ってもミルクを注いでもいい。懐かしさを感じる牛乳びんのような入れものも、ちょっと楽しい。

 
そうやって全てを味わったあとに、窓から空を見上げると、決まって心が晴れやかになっている。それがなぜか初めはよくわからなかったけれど、もしかしたらふたりが仕かけてくる、いくつものサプライズに心が弾むせいかもしれない。
 
ほどよく会話を楽しめて、ほどよくそっけない距離感もいい。帰り際に、気持ちのいい笑顔で送りだしてくれることも、すみずみまで掃除が行きとどいていることも。常連さんらしき人たちが楽しげに過ごしている姿も、きっと理由のひとつ。
 
食堂黒猫には、目に見えないいくつもの心地よさが織りこまれている。

  
だから、ここに来るときにはいつもひとりで。ふたりがつくる料理と空間をゆっくりと味わいたいから。毎回、今日はどんな時間が待っているだろうかと、わくわくしながら扉を開けている。
 
 
食堂黒猫
住所/沖縄県那覇市首里赤平町2‐40‐1 3階
電話/050‐1070‐6774
時間/9時~17時(L.O.16時30分、それ以降はコーヒーの持ち帰りのみ)
定休日/月・木曜日、第一金曜日
*自家焙煎の豆も購入できます
 
 
沖縄CLIPフォトライター 小野暁子
 
 
 
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