
本島南部、世界遺産にも認定されている、琉球王国最大の聖地『斎場御嶽(せーふぁうたき)』からほど近く、のどかな国道331号線沿いに佇む“琉球カフェかばさ”。

首里出身のオーナーが手間ひまかけて作る琉球伝統料理の御膳に魅かれ、県内外の文化人や食通も足繁く通う、知る人ぞ知るお店です。

席へつくと、朱塗りの琉球漆器のお盆と茶托に乗せられたおいしいお茶がサーブされます。もう何十年も使い込まれた壺屋焼きのチューカー(急須)も堂々たる風情。

この日、いただいたのは「かばさ御膳(1,500円)」。たくさんの小鉢に盛られたお料理に目移りしちゃいそう!
(写真右下の汁物から時計まわりに)ターウム(田芋)の茎と芋が入った「ムジ汁」、沖縄風炊き込み御飯の「クフヮジューシー」、グリーンとオレンジが鮮やかなひと皿は、「ヘチマとクワンソウの酢漬け」。その上は、ターウムと椎茸などを混ぜた「ドゥルワカシー」。ぷるるんもちっとした食感がたまらない白いお豆腐のようなものは、落花生でできた「ジーマーミ豆腐」。田芋を甘く煮た「ターウム田楽」。コリコリした豚の耳皮はゼラチン質の珍味「ミミガーウサチ(和え物)」。真ん中の「イリチー」は筍や昆布などの炒め煮です。ターウム(田芋)は、里芋よりも粘りが強くコクがあり、子孫繁栄をあらわす食材として、沖縄では昔からおめでたい席には欠かせないものだったそうです。

「まずは、お汁を少し啜って、それからおかず、御飯。酢の物は箸休めに。甘いターウム(田芋)田楽はデザートがわりだから本来はおしまいの方にネ。でも、いいのよ、好きなものから召し上がれ」と、首里の城下町で琉球士族の家柄に生まれ、幼い頃から厳しい躾と手の込んだ“ユカッチュ(士族)”料理で育ってきたオーナーの城間(しろま)さん。

お膳に入り切らないお料理も、城間さんの楽しいおしゃべりとともに運ばれてきます。箸がすっと通るほど柔らかな豚肉の角煮「ラフテー」、香ばしく砂糖醤油でからめた「揚げターウム」。

「たいていどの料理にも、豚とカツオの出汁が入っているの。丁寧にゆったり時間をかけて出汁で下ごしらえをしておいて、仕上げは、その日の天気やお客さまに合わせてお出しする直前にするのヨ。今日はちょっと暑いなあっていう時、男性の方だったら少しお味噌を足すという塩梅にネ」。

沖縄の方言で、手間ひまかけた愛情たっぷりのごちそうを“てぃーあんだ(手のあぶらの意)”料理と言います。海から離れた首里の町では、生魚や生野菜を食す習慣はあまりなく、下ごしらえをしっかりした豚肉や野菜料理など手の込んだ品々が、“ユカッチュ料理”として食卓にのぼったのだそうです。城間さんの心遣いあふれる“てぃーあんだ”たっぷりの料理や器たちは何よりのおもてなしです。

最後に登場するデザートは、自家製肉味噌をくるんだ沖縄風クレープの「ポーポー」とやさしい甘さの「ぜんざい」、どれも昔ながらの本物の味。お店の名前にもなっている“かばさ”とは沖縄の方言で、香しいという意味ですが、直接的な香りや匂いだけでなく、その雰囲気や佇まいを形容する時にも用います。格別の料理と過ごすおいしい時間————“かばさなひととき”をぜひお楽しみください。
琉球カフェかばさ
住所/沖縄県南城市知念字知念923
電話/098-949-7006
営業時間/11:30〜17:00
定休日/水・木曜日
HP/なし
沖縄CLIPフォトライター 鶴田尚子