
「馬にはね、不用心に近づいちゃだめだよ。レッドゾーン、イエローゾーン、ブルーゾーンっていうのがあって、うっかりレッドゾーンに近づくと嫌がって蹴ろうとすることだってある。だから、ブルーゾーンあたりから『ここにいるよー、自分は敵じゃないよー』って馬に知らせるわけ」

「はい!」
「はい!」
乗馬体験キャンプに参加している子ども達は手を挙げて応える。すっかり久野雅照(ひさの・まさてる)さんのことを信頼しているようだ。
ここは、日本最西端の与那国島(よなぐにじま)のヨナグニウマふれあい広場。ヨナグニウマを絶滅の危機から救おうと、30年ほど前に久野さんが立ち上げた牧場だ。


シュッ、シュッ、シュッ。馬との距離を縮めるのに欠かせないのがブラッシング。ブラシの持ち方と手の動かし方にはコツがある。
「『いい子だねー』って優しく語りかけながらブラシをかけてあげるんだよ。ブラシを持っていない手は馬の体に添えるようね」


馬との距離が縮まってきたところで広場内で乗馬の練習。馬に乗るのも簡単じゃない。みんなで輪になってぐるぐるぐるぐる。両腕を空に届くように伸ばしたり、大地と平行にグーンって伸ばしたりの乗馬体操。

「上り坂ではね、体を前に倒すんだよ。忘れちゃいけないのが『がんばれー、がんばれー』って声をかけてあげること。君らを乗せて坂を登るのって意外と大変だからね」
馬に声をかける…。シンプルだけど大切な基本。


「荷台ってさいこー!」
「見て見てー、空が広ーい」
慣れてきた頃に軽トラックで見晴らしのいい場所に移動。軽トラックの荷台に乗ることなんて都会ではできない体験だから子どもたちは大はしゃぎ。
しばらくすると目的地に到着。遠くには小高い山が南の島の太陽を受けて輝いている。今日は樹々に囲まれた広い草原での乗馬体験。

「草の匂いがたまらないよね。草の匂いが集中力にいいって最近研究結果が出たんだよ」。久野さんの言葉にみんなそろって草に鼻を近づける。
ビーチでの乗馬はワクワクするけど、森の中での乗馬は心の底からリラックスできる。
「馬にとってはさ、草原はお菓子畑みたいなもんなんだよ。草に気が行っちゃうから集中させてあげてね」
あたり一面を覆う島中にこだましそうなカラフルな歓声。あっという間に過ぎていく楽しい時間。



牧場に帰ってきたら、今度はお手伝いの時間。草原のあちこちに落ちているボロ(馬糞)を拾う。糞を拾うというただそれだけのことでも、子どもたちにとっては遊びだし喜びでもある。ひと通り終わったら次は厩舎。
「馬を驚かせないように注意しながらね。『通るよー』って声を掛けてびっくりさせないように」。

きれいになったところで、お開きの時間。締めくくりに久野さんが子どもたちに宿題を出す。
「与那国島にはいま、120頭のヨナグニウマがいる。絶滅するかしないかの境目は400頭。それより少ない状態が続くと、馬たちは絶滅しちゃうんだよね。キャンプファイヤーの時間までにどうしたら絶滅を止められるか考えておいてね」
「はーい!」という子どもたちの大きな返事に馬たちも嬉しそうに耳をピクリとさせた。

日本の西の果てに住むやさしくて人懐っこいヨナグニウマ。ゆったりとした時が流れる南の島で馬との間に築かれるあったかい関係。都会では味わうことのできない体験から私たちはどんなメッセージを受け取れるだろう。
《与那国島で体験できるメニュー例》
◎体験乗馬・体験トレッキング
ふれあいと体験乗馬(20分:3,000円)
お楽しみトレッキング(45分:4,000円)
◎中距離トレッキング
カタバル浜コース (150〜180分:15,000円)
日本最西端の灯台コース (150〜180分:20,000円)
そのほか「乗らない馬体験」(20分:2,000円)や「1日牧場体験コース」など初心者から上級者まで楽しめる様々なコースが用意されています。
★ヨナグニウマは小柄な馬なので季節や乗馬内容によって体重制限を設けています。詳しくはNPOヨナグニウマふれあい広場(0980-87-2911)お問い合わせください。
ヨナグニウマふれあい広場
住所/沖縄県八重山郡与那国町字与那国4022
電話/0980-87-2911(予約は090-1941-4758へ。受付は8:00〜20:00)
定休日/不定休
沖縄CLIPフォトライター 福田展也