貿易国家だったという過去や、基地文化の影響から国際色が豊かな沖縄。どちらかといえば、沖縄市や北谷町(ちゃたんちょう)など中部地区が国際的な雰囲気を楽しめるエリアとしてしられているが、那覇市にも夜な夜な外国からの旅行者や沖縄に住む外国人が集まってくる場所がある。新都心と国際通りの中間にある『DOJO BAR』。イギリス出身の空手家が経営するインターナショナルなバーだ。
店名も店構えも、どことなく怖い感じがするが、ドアを開けてお店に入ると先入観は見事に打ち砕かれるだろう。オーナーのジェームス・パンキュビッチさんが大切にしているのは“feeling of laid back”、リラックス してくつろげる空気感。ジェームスさんも、スタッフも、いたってフレンドリー。イギリスの本場のパブのように、気さくさでリラックスできるナイトタイムを楽しめるはず。
おまけにお客さんも、地元客、旅行客、沖縄在住の外国籍の人と多種多様。空手家が怖い存在だと言うつもりはないが、英語をブラッシュアップしたい人、異文化に触れたい人など空手家以外のお客さんにもリピーターが多いのだという。
オススメのメニューはオリジナルのピザと本場イギリスのフィッシュ&チップス。ピザは毎日手ごねをした生地を丁寧に焼きあげている。ギリシャ風のピザからハラペーニョを使ったピリ辛のピザまでバリエーション豊富。
フィッシュ&チップスといえばカリッと揚げられた衣がポイント。DOJO BAR の場合、ビールを使って、表面はカリッと、中はふわふわのフリッター生地が自慢。本場イギリスのソウルフードだけに、ジェームスさんも手を抜くわけにはいかない。いつ行っても、おいしい状態で出してくれるのが嬉しい限りだ。
空手の発祥の地沖縄で、「道場」を名乗って営業しているだけあって、お店には伝説的な空手家が愛用していた空手着、現役で活躍中の空手家のサイン、古武道の武具など空手に関する展示物がところ狭しと展示されている。それだけではなく空手や古武道、さらには世界のマーシャルアーツ(格闘技)に造詣が深いジェームスさんの頭の中には様々な情報が蓄えられている。海外から来た空手家にも「ここはまさに空手博物館だ!」と好評でクチコミで海外から訪れるお客さんが増えているそうだ。
たまたまこの店にやって来た旅行客から「沖縄の伝統文化に触れてみたい」と相談さ れると、県内の空手道場を紹介することもあるというジェームスさん。18歳で空手を始める前は、カンフー映画やサムライ映画が大好き。高校生の頃には宮本武蔵の『五輪書』を読んでいたというから驚きだ。そんなジェームスさんに空手の魅力について聞いてみた。
「空手の基本は力強さとしなやかさのメリハリ、固執しないで無心になること。そうすることで状況に対して素早く的確に対応できるんです。沖縄は日本や中国という大きな国に囲まれながらも存在をうまく保ってきましたよね。そして、オリジナルな文化を損なうことなく継承してきています。それができたのは空手の基本と同じ剛柔のメリハリと物事に固執しない柔軟性があったからだと思うんです」
返ってきたのは沖縄生まれの人以上に沖縄のことを理解し愛していることが伝わってくる言葉だった。さらに沖縄礼讃の言葉が続く。
「島の生活っていいですよね。海から吹く風、海の近くの暮らし、ウミンチュ(海の人)。海に近いギリシャにも住んでいたことがあるし、イギリスも島国だからウミンチュは世界中にいますけど、“いい人”が多いですよね。周りの人のことにも気を配っている人、助け合うことを当たり前だと思っている人。外国からのお客さんは見ての通り多いですが、『沖縄はフレンドリーで安全な街だ』って多くの人が口にします」
空手家の責任は周りの人を守ることだと考えるジェームスさん。「“守る”というこ とは技や腕力を使うことではない」という。安全な状態にいるスキル。争いが起きないような暮らし方をする力。「争いの理由の半分は誰もが持っているエゴなんですよ。争いは突然起きることはないでしょ。たとえば意見の違いとか誤解があって、感情に流されて、乱暴な言葉を使って、というふうに何かの違いが段階的に争いになっていく。その時々の要所でどんな行動を取るかで結果はまったく違ったものになるんです。そのときに必要なのは自分を律する力なんですよ」。
感情をコントロールする、エゴを上手になだめてあげる。空手の修練を続けるなかでそういう力が培われてきたのだろう。ジェームスさんの言葉からは知識以上の重みが伝わってくる。それは沖縄の「おじぃ」や「おばぁ」からしばしば感じる強さと優しさが混じりあったものと多分同じ。辛い体験を乗り越えてきたからこそ育まれた慈愛と抱擁の力だろう。
住所/沖縄県那覇市安里101
電話/098-911-3601
営業時間/19:00~25:00
定休日/不定休
Webサイト/http://www.dojobarnaha.com
沖縄CLIPフォトライター 福田展也
《沖縄文化に触れてみる》
帽子になった赤瓦屋根、Tシャツになった沖縄地図。あたらしい沖縄土産
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