「“うみんちゅ”ってワイルドでかっこいい!」。今回ご紹介する感動体験プログラム『伊江島うみんちゅBBQ』の魅力はこのひと言に集約できるだろう。

“うみんちゅ”とは沖縄の言葉で漁師のこと。「空を流れる雲の様子から台風が天気予報通りに接近するかどうかを読み取れるし、道具がなくても食べものを自分の力で確保できる」。沖縄のうみんちゅは沖縄の地元の人にとっても憧れの存在でもある。そうしたうみんちゅから人生をたくましく生き抜いていくためのヒントを学べるのが株式会社国際旅行社が企画した感動体験プログラム『伊江島うみんちゅBBQ』だ。

「おれたちはお客さん扱いしませんから」。プログラムの発案者の一人、古堅幸一(ふるげん・こういち)さんはツアーの冒頭でこう言い放った。
「これからの体験ではうみんちゅの言うことを聞かないと叱られるよ。海はテーマパークじゃないからね。一歩間違えば怪我をしたり、命に関わることだって起きる場所だから」。


伊江島観光協会の会長を務める古堅さんは、遠洋漁業の船乗りとして世界中の海を渡り歩いてきた筋金入りのうみんちゅだ。沖縄の民泊先進地として知られる伊江島で、最初に民泊を始めたグループの一人でもある。そんな古堅さんや、伊江島漁協観光部会のメンバーなど、本物のうみんちゅを中心に企画されたのが『伊江島うみんちゅBBQ』。今までにないユニークな体験を楽しめそうだ。

伊江島に到着して最初にチャレンジしたうみんちゅ体験は「いかだづくりと伝統釣り」。丸太、足場板、ロープを使って、うみんちゅと一緒にいかだをつくるというものだ。いかだづくりのポイントは、ロープワーク。

うみんちゅならではの見事な手さばきは見ているだけでもうっとりする。自分にも簡単にできそうに思えるのに、実際にやってみると想像以上に難しい。けれども何度も質問を繰り返し、手を動かすうちに、いつの間にか覚えてしまった自分に我ながら感動してしまう。
秘密基地とかツリーハウスをつくるときのように、子ども心に還る体験は、都会ではなかなか味わうことできない貴重なもの。トム・ソーヤの冒険を地で行くひとときはあっという間に流れていった。

いかだのめどがたったところで釣竿づくり。近くの林から拾ってきた木の枝を使う原始的なもの。こちらは、構造も単純なので、うみんちゅの指導のもとで、あっという間に見事完成!

さあ、いよいよいかだに乗り込んで漁場にゴー!ちゃんと浮かぶか少し心配ではあったけれど、乗り心地は正直最高。サバニ(木製の伝統的な小舟)用のエーク(シーカヤックでいうパドルのこと)を使ってゆっくりと沖の方へ。

透明度が半端でない海はそれだけでも幸せ。「今日の晩御飯はみなさんの釣果しだいですからね」という主催者の言葉にはじめは真剣だった参加者も、タスクを忘れてきれいな海を泳ぐだけでも大満足。
トライしたのは「泳ぎながら釣る」という意味の漁法「いーじゅんぐぅぁーし」。海面から海底を覗き込んで魚の近くに餌を垂らすという漁法で伊江島に古くから伝わるものだとか。結果は、グループ全体でなんと2匹。結果よりもプロセスに拍手パチパチパチ、参加者全員大喜び。

あっという間に時間が過ぎて、お腹もグーグー言い始めたところでランチタイム。伊江島名物のまぐろ天ぷら丼でエネルギーをおいしく補給。普段は使わない筋肉と頭を思いっきり使ったせいで、一気に丼が空に。

のんびりと海辺のお昼休みを満喫した後は、二つ目のプログラム。「漁船に乗っての沖釣り」体験。うみんちゅが漁に使っているいつもの漁船に乗り込んで、「必ず釣れる」ポイントへ。
沖縄の県魚、グルクンと高級魚のアカジンがターゲット。グルクンは釣竿を使ったり、自分の手を竿の代わりにつかったり。「海底に届いたら少しだけ巻き上げて二、三度上下に動かせば良いんだよ」という船長の言葉通り、まき餌をたっぷり仕掛けに詰めてトライすると次から次にグルクンがかかって船の上は大歓声に包まれる。時々ヒゲの生えたかわいい魚、「オジさん」や「シライユ」という名前の白い鯛も上がってくる。

アカジンはといえば、これはさっぱり反応ゼロ。「てぃーなわ」というプロでも三年はかかるという伝統漁法。太めの糸を使い、手の感触を頼りに大物を釣り上げるというもので、微妙な音を手で聞き分けられるようにならないと一人前のうみんちゅでも釣れないらしい。「経験自体に価値があるんだから」と寡黙な船長の慰めもあり、大豊漁のグルクンと一緒に船は港へ向かっていった。



三番目のプログラムは「うみんちゅBBQ」。自分たちが釣った魚をうみんちゅの指導を受けながら、自分たちでさばき、自分たちで焼いて食べる体験はまた格別。慣れない作業もなんのその。打ち解けてきた“仲間”たちと和気あいあいのムードの中で、ホイルバーターにしたり、素揚げにしたりで海の幸を堪能! お酒はもちろんオリオンビール。「沖縄の夜にオリオンは欠かせないよね」とはうみんちゅの弁。きれいな星を眺めながらのBBQは沖縄ならではのもの。思い出深いうみんちゅ体験の一日があっという間に過ぎていった。

4番目のプログラムは、伊江島名物の民泊体験。うみんちゅの家庭で過ごす一晩は文字通り心温まるもの。沖縄の特産のタカラガイを使って、ストラップやミサンガを作ったり、うみんちゅの「おばぁ」と一緒に、沖縄天ぷらを揚げたりと、冗談を言い合いながら過ごす時間はリゾートホテルでは味わえない貴重な体験。

「こんなに人って温かいんだと感じられるくらい島の人の優しさに触れた」。「民泊先のおばあが島の昔の話や暮らしについて話してくれた。また会いに行きたいと思えた」。「那覇とは違うなあと思った。観光化されていないから、私たちをお客さんとして特別扱いしたり、逆にビジネスライクに接したりしないで、ひとりの人として扱ってくれた」。民泊で一緒に過ごした仲間たちに共通していたのは、民泊が普段の忙しさの中で忘れていた大事なものを思い出させてくたという感動。

四つのプログラムを体験して得ることができたのは数え切れない感動体験と第二のふるさとと呼べる場所に巡り会えたこと。最終日の出発の時、民泊でお世話になったホストファミリーが港に見送りに来てくれた時はさすがに目頭が熱くなった。島のおっかーと再会できた嬉しさと別れの寂しさで複雑な涙を流す仲間からおもわずもらい泣きしてしまう。

帰りのフェリーの中でこのプログラムの考案者の一人、野中光さんに『伊江島うみんちゅBBQ』の企画の経緯を聞いてみた。企画系の仕事をしている野中さんは、オフィスに出勤するとたいていパソコンと電話で仕事をしているのだという。

「毎日こういう風に経験を重ねていって一人前の職業人に育っていくだろうなあと思い始めていた時に、うみんちゅの古堅さんと出会って、一人前になることの意味が変わったんです。『おまえ、魚釣れるのか?』、『縄を結ぶことはできるか?』と問われて、何も言えない自分がいたんですよね。その時に思ったんです。自然とかけ離れて都会に生きている自分のような人間にとって必要なもの、つまり人間力を育む機会をうみんちゅのみなさんと作りたいと」。
将来は一回限りのプログラムではなく、段階的にスキルアップできる連続プログラムに発展させたいと目を輝かせる野中さん。このトライアルプログラムが近い将来現実化されれば、たくさんの人が伊江島でうみんちゅの魅力に触れることができるだろう。
沖縄CLIPフォトライター 福田展也
■感動体験プログラムについて、詳しい情報は公式サイトをご覧ください。