沖縄で生まれた独自の染めもの「琉球びんがた」
沖縄が好きな方には馴染みの深い色彩豊かな「琉球びんがた」は500年ほど前から伝わる伝統工芸で、南国沖縄の独特の風土から生まれた型絵の染物です。「紅型(びんがた)」の「紅(びん)」は色を、「型(かた)」は模様の意味を表しています。さまざまな色を使って型で染めた「紅型」は琉球王国時代の王族や貴族の衣装として、又は御冠船舞踊(中国からの使者、冊封使)の迎える儀式の時に着用が許された高貴なものでした。
「琉球びんがた」には「紅型」「藍型(イェーガタ)」「筒描き」の3つの種類があります。
「紅型」はデザインした図案から型を彫り、型紙をあてて生地に糊を施したのちに色を染めていく型染で、主に着物や帯などに使われています。
※琉球びんがた普及伝承コンソーシアム提供
藍型は、単色で濃淡の型染です。琉球藍を用いて染めることが多く、涼しげな藍の色彩は夏物の装いに好まれています。
(筒描きで描かれたタペストリー)
ほかに、型紙を使わず糊を搾り出しながらフリーハンドで描いていく「筒描き」と呼ばれる技法もあります。糊引き(ヌイビチ)とも呼ばれ、主に「うちくい」と呼ばれる大判の風呂敷や幕などで多く見られます。
「琉球びんがた」のあゆみ 〜琉球王国から沖縄〜
※琉球びんがた事業協同組合提供
※琉球びんがた事業協同組合提供
「琉球王国」として約450年栄えた沖縄は、近隣諸国との平和的な関係を維持するために盛んな交易を続けていました。そこから積極的に中国や東南アジアの染織の技術を学び自国の文化として取り入れ、技術を磨きあげていきます。交易品の中にインド更紗・ジャワ更紗・中国の型紙による印花布などがあり、それらの影響を受けて沖縄独自の『紅型』へと昇華されました。
琉球王府の庇護のもと華麗な紅型の世界が花開きます。配色のなかでも特に黄色が高貴な色とされ、王家の人のみに着用を許され、一般の人々は着用ができなかったのです。
明治政府による廃藩置県で琉球王国は沖縄県へと代わり、王族や士族のために染められた紅型は急速に衰退へと向かいます。
民芸運動によって再び灯された「琉球びんがた」
琉球王国時代の発展から明治時代の廃藩置県により衰退の一途を辿った紅型は、沖縄の画家や城間栄喜氏(しろまえいき:城間びんがた工房14代目)を中心に復興して、再び火が灯ります。
日々の暮らしで使っている工芸品から「用」と「美」が結びつく魅力を見いだし、それを発信する「民芸運動」。思想家・柳宗悦氏(むねよし)が発起人となったこの運動は、大正から昭和時代にかけて隆盛を極めていきます。柳宗悦氏は、芹沢銈介氏(けいすけ/のちに人間国宝となる型絵染師)とともに沖縄を訪れたとき紅型に出会います。沖縄独自の型染めに魅せられた柳宗悦氏は、多くの型紙を収集し買い求めたそうです。
戦前に柳宗悦氏、民芸運動の人達で本土へ運び日本民藝館に貯蔵されていた紅型や型紙は、そのお陰で第二次大戦の戦火を免れ、その後復興のために無償で沖縄へ戻されたそうです。
終戦後、紅型三宗家の城間栄喜氏と知念績弘氏(ちねんせっこう:上儀保村知念家5代目)が中心となって、紅型を復活させるために動き始めます。
戦後はあらゆる物資が不足していたため、型紙は海軍の地図を使い、捨てられた口紅などを色にして麻袋に染めることで、紅型の再興がはじまります。また、のちの人間国宝・鎌倉芳太郎氏が戦前に沖縄で教鞭をとっていた際、紅型に関する調査・研究をしていました。その内容がまとめられた通称「鎌倉ノート」は、紅型の技術を受け継ぐ貴重な資料となりました。
城間家・知念家をはじめ紅型の価値を理解し魅了された多くの人々の力によって「琉球びんがた」は「京友禅」「加賀友禅」「江戸小紋」と並ぶ日本を代表する染織へと再び開花します。
受け継がれる「琉球びんがた」の魅力
幾度の危機を乗り越えてきた沖縄県無形文化財「琉球びんがた」。その魅力は沖縄の風土が生み出した艶やかな色彩と、高度な技術を絶やすことなく受け継いできた文化が織り重なっているところです。
多くの人を魅了する紅型のビビッドな色彩感覚は沖縄だからこそ生み出せるもの。温かい南国の大自然が、おおらかな色彩と大胆なデザインの発想に繋がり、艶やかな色彩を奏でているのです。
帯や着尺にとどまらず、現代の暮らしに取り入れやすい洋服生地やリビングなどの住空間に彩りを添える「タペストリー」や「額絵」も根強い人気があります。長きにわたり受け継がれてきた紅型は、時代に合わせたスタイルで沖縄らしい「用の美」を取り入れながら、明るい色彩で未来の扉を開いていくのでしょう。
沖縄CLIPマルシェで買える色彩豊かな「琉球びんがた」
沖縄CLIPマルシェでは今回紹介いたしました「琉球びんがた」が暮らしの中で身近に使えるラインナップをご用意しています。
桜や菊をモチーフにした華やかな色合いの「長財布」や中にも小さながま口がある親子がま口など、いつもの暮らしに華を添えてくれる品々で沖縄の伝統工芸を楽しんでみてください。
沖縄CLIPフォトライター monobox(河野哲昌、こずえ)
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